政府労災保険の基礎知識


2007年10月28日 19:11
政府労災について
このページは、皆様にご提案の任意労災保険とは別に、政府労災保険の知識について、お役に立つよう作成したものです。


本サイトの内容は執筆時点における法令および社会情勢に基づいて記されています。
なお、利用者の経営結果については責を負いかねますので、ご了承ください。
詳細については、顧問社会保険労務士または最寄の労働基準監督署へお問い合わせください。
 
1.政府労災保険の目的

(1)政府労災保険とは

政府労災保険は、労働基準法(労基法)により義務づけられている事業主の労働災害補償責任の履行を担保することを目的とする政府管掌の保険である。

労働者災害補償保険法(労災保険法)第1条(目的)

ポイント
①労働者災害補償保険法にもとづく政府管掌の保険である。
②事業主が被用者に対して負う補償責任をカバーする。
③ほとんどすべての事業に自動的に成立する。(強制適用)

 

(2) 労災と補償制度

①労働基準法-災害補償制度-

災害による被災労働者の救済制度は、労働者の生活保障という面から極めて重要であり、各国ともこれを社会政策的な意味で立法化している。

わが国においても、古くはエ場法(明治44年)の中に労働者やその遺族に対する扶助制度をとりいれたが、それが労働者災害扶助法(昭和6年)となり、更に現在の労働基準法(昭和22年)の中の災害補償制度となってひきつがれている。


②労働者災害補償保険法-補償責任の履行確保-

労基法上の使用者の災害補償責任は、法律上の義務として使用者に対し罰則をもって強制されている。
その完全履行の裏付けとして、労働者災害補償保険法にもとづいてつくられた保険制度が、政府労災保険である。


③労基法をこえる政府労災保険

政府労災保険は、上述のとおり労基法に定める補償責任を履行するための資力の裏づけとしてスタートしたものであるが、現在の政府労災保険の給付内容は数次の改訂を経て、労基法に定める補償内容より手厚いものになっている。

 
2.政府労災保険の仕組み(保険関係)

● 政府(保険者)は、毎年、事業主等(保険加人者)から保険料を徴収し、
● 労働災害(業務上または通勤途上の災害)が発生した場合に、被災労働者またはその遺族(受給権者)に対し、迅速公正な保険給付を行う。

この仕組みを、保険関係という。
 
3.適用事業

(1)事業の概念
政府労災保険において事業とは、労働者を使用して行われる活動をいい、企業という概念とは異なる。

工場、建設現場、商店等のように利潤を目的とする経済活動のみならず社会奉仕、宗教伝道等のごとく利潤を目的としない活動も含まれる。


(2)強制適用事業と暫定任意適用事業

政府労災保険は、船員、公務員を除く民間事業のすべてを対象としており、原則として、労働者を1名でも使用している限り法律上当然に、自動的に保険関係が成立する(強制適用)が、当分の間任意適用事業とされているものもごく一部ある。


①強制適用事業(およそすべての事業)

事業主は、特に保険加入手続を要せず、その事業の開始の日から保険関係が当然に成立する。

→手続:事務手続上の要請により、保険関係成立の日から10日以内に労働基準監督署(労基署)、または公共職業安定所(職安-労働保険事務組合の場合)へ「保険関係成立届」を提出しなければならない。

②暫定任意適用事業(下記の例外的事業)
事業主が保険加人の申請をし、政府の認可があったときに保険関係が成立する。
なお労働者の過半が希望する場合には、事業主は加入申請をしなければならない。

→手続: 「任意加人申請書」を労基署へ提出する。
→次の2つに該当する常時使用労働者4名以下の個人企業


・土地の耕作もしくは開発または植物の栽植、栽培、採取もしくは伐採の事業その他農林の事業。ただし、農業の事業のうち、その事業主がその事業について特別加入している場合を除く。

・動物の飼育または水産動植物の採捕もしくは養殖の事業その他畜産、養蚕または水産の事業。
 
4.適用単位としての事業(場)

(1) 事業(場)単位適用の原則
労災保険法は、個々の事業(場)毎に適用される。
即ち、個々の事業(場)毎に保険関係が成立し、事業の種類や労災保険率が決定されるのである。

(2)継続事業と有期事業
一定の場所において、一定の組織の下に相関連して行われる作業の一体は、原則として一の事業として取扱う。


①継続事業
工場、鉱山、事務所等のごとく、事業の性質上事業の期間が一般には予定し得ない事業を継続事業という。


●継続事業における一つの事業(場)

a.同一場所にあるものは分割することなく一の事業とし、場所的に分離されているものは別個の事業として取扱う。(場所による決定)

b.同一場所にあっても、その活動の場を明確に区別することができ、経理、人事、経営等業務上の指揮監督を異にする部門があって、活動組織上独立したものと認められる場合には、独立した事業として取扱う。

C.場所的に独立しているものであっても、出張所、支所、事務所等で労働者が少なく、組織的に直近の事業に対し独立性があるとは言い難いものについては、直近の事業に包括して全体を一の事業として取扱う。



②有期事業
木材の伐採の事業、建物の建築の事業等事業の性質上一定の目的を達するまでの間に限り活動を行う事業を有期事業という。

●有期事業における一つの事業(場)
a.当該一定の目的を達するために行われる作業の一体を一の事業として取扱う。(目的による決定)

b.国または地方公共団体等が発注する長期間にわたる工事であって、予算上等の都合により予め分割して発注される工事については、分割された各工事を一の事業として取扱う。

(注)1.一定の目的を達するために、場所的かつ時期的に相関連して行われる附帯作業、迫加作業等は、一定の目的を達するために行われる事業の一部をなすものとして取扱われる。

2.時期的に独立して行われる作業であっても、当該作業が先行する事業に付随して行われるものである場合には当該先行する事業に吸収して取扱われる。



(3) 複数事業(場)の一括
上記原則の例外として、以下の三つの場合には、複数の事業(場)を一括して一個の保険関係として処理し、保険事務処理の簡素化を図ることが認められている。

①継続事業の一括
経理事務を集中管理する事業が多い実情に合わせ、できるだけ保険関係を一括して扱うようになっている。


一括の条件

以下のすべてに該当することが必要である。
a.事業主が同一であること
b.それぞれの事業が継続事業であること
c.それぞれの事業の種類が同一であること
d.一括について政府の認可を得ること

申請の手続
「継続事業一括申請書」を労基署または職安へ提出する。


一括の効果
a.それぞれの事業場における保険関係は消滅し、指定を受けた一つの事業場(一括された事務を扱う特定の事業場)において単一の保険関係が成立する。

b.保険料納付事務は集中するが、保険給付事務は一括前のそれぞれの事業場所在地の労基署が所管する。

②有期事業の一括
小規模の有期事業を相前後して各地で行う事業主については、一定の地域内で行われるそれらの事業を一括して一事業とみなして保険事務を処理する。

一括の条件
a.事業主が同一人であること

(注) 数次の請負による建設事業の場合には、労災保険法上の事業主は原則として元請負人となるので(請負工事の一括)、元請エ事のみが一括の対象となり、下請工事は一括の対象とすることはできない。

b.それぞれの事業が、建設事業または立木伐採事業のいずれか一方のみに属するものであること

c.建設事業にあっては請負金額が19,000万円未満、立木伐採事業にあっては素材の見込生産量が1,000㎥未満であること
(注)ここでいう請負金額とは、請負契約上のものではなく、労災保険料の算定基礎となる請負金額(工事用資材の価格や機械器具の損料等を加減して算出した額)である。

d.それぞれの事業規模が、概算保険料の額で160万円未満であること

e.建設事業については、それぞれの事業の種類が同一であること

f.それぞれの事業が、一定の地域内(保険料納付事務を扱う事務所の所在地の都道府県内またはその隣接都道府県内)で行われること

申請の手続
不要
(上記条件をすべて満たすことにより、自動的に一括される)

一括の効果
一つの継続事業として取り扱われる。

③請負事業の一括

発注者→元請負人→下請負人→再下請負人などのように、2以上の事業が縦に請負契約によって連鎖される場合(数次の請負事業)については、数人の事業主が存在することになるが、通常相互に有機的関連があり、個別に保険関係を成立させることは実情に合わないため、一括加入の途が開
かれている。

有期事業または継続事業の一括は、同一事業主が行ういくつかの事業を括したものだが、ここにいう数次の請負事業の一括では、数人の事業主が数次の請負関係にたって行ういくつかの工事を一括し、元請負人のみを一括された事業の事業主とするものである。

一括の対象
数次の請負による建設事業
申請の手続
不要

(左記条件を満たすことにより、自動的に一括される)

一括の効果
すべての工事が元請負人
の行う事業の一部と見な
され、全体が一つの事業
として取扱われる。

●下請事業の分離
当該連鎖の中の下請工事について、下請だけで請負金額が19,000万円以上または概算保険料の額が160万円以上になる場合には、元請負人は、「下請負人を事業主とする認可申請書」を労基署へ提出し認可を得ることによって、その下請工事部分につき独立の保険関係を成立させることができる。
 
5.受給権者

(1)労働者と遺族
政府労災保険の保険給付の受給権者は労働者であり、死亡事故の場合はその遺族となる。

①労働者
職業の種類を問わず、事業に使用される者で賃金を支払われている者をいう(労基法第9条)。
従って、法律上の雇用契約の有無にかかわらず、事業に使用されて賃金を得ている実態があればよい。

②遺族
遺族への給付については、死亡者の収入により生計を維持していた者について、次に掲げる受給資格者がいる場合はその人数に応じて年金で、いない場合は一時金で行われる。

生計を維持していたとは、主たる維持である必要はなく、一部でも生計維持関係があればよい。

●受給資格者およびその順位

①妻 または 夫(60才以上または一定の障害の者)
②子(18才に達する日以後最初の3月31日まで、または一定の障害の者)
③父母(60才以上または一定の障害の者)
④孫(18才に達する日以後最初の3月31日まで、または一定の障害の者)
⑤祖父母(60才以上または一定の障害の者)
⑥兄弟姉妹(18才に達する日以後最初の3月31日まで、60才以上または一定の障害の者)
⑦55才以上60才未満の夫、父母、祖父母、兄弟姉妹

上記①~⑦の資格者のうち最上位者に対し一括して年金が給付される。
(注) 「一定の障害」とは、政府労災保険障害等級5級以上、または傷病が治らず労働が高度制限を受けているかまたは労働について高度の制限を必要とする障害をいう。
※給付額については、付5 政府労災保険・死亡(遺族補償)給付明細表参照


(2)特別加入者
政府労災保険は、事業主に使用され賃金を受けている者の災害に対する保護を主な目的とする制度であるから、事業主、自営業者、家族従事者など労働者以外の災害は、本来ならば保護の対象とはならない。
また、労災保険法の適用については属地主義により、日本国内に限られており、海外の事業場に派遣された労働者の災害は原則として政府労災保険の保護の対象とはならないとされる。

しかしながら、中小事業主、自営業者、家族従事者などのなかには、その業務や通勤の実態、災害発生状況等からみて労働者に準じて保護するにふさわしい者がおり、また、海外の事業場に派遣された労働者についても、外国の制度の適用範囲や給付内容が十分でないために、わが国の政府労災保険による保護が必要な者がいる。

そこでこれらの者に対しても、政府労災保険本来の建前をそこなわない範囲で政府労災保険の利用を認めようとするのが特別加入の制度である。

具体的には、①中小事業主等、②一人親方等、③海外派遣者が対象となる。

①第一種特別加人者(中小事業主等)

a.中小事業主
常時使用する労働者数が300人以下の場合の事業主
(例外) 卸売・サービス業‥‥‥100人以下
    金融・保険・不動産・小売業‥‥‥50人以下

b.中小事業主が行う事業に従事する役員・家族従事者
上記に該当する規模の従事者で、労働者にも、事業主にも該当しない者
法人企業の場合‥‥‥業務執行権のある役員
個人企業の場合‥‥‥事業主の家族従事者

→加入手続
○条件 ・当該事業について保険関係が成立していること
    ・労働保険事務組合への保険事務の委託
○手続 労働保険事務組合を通じて「特別加入申請書(中小事業主等)」(記名式)を労基署へ提出し、承認を受ける。

労働保険事務組合

1. 制度のねらい

労働保険に関する事務の専任者をおけないような中小企業に代わって、集団的に労働保険の事務処理を行う機関。これに加入している事業主、個々の保険料額にかかわらず3分割納付が認められる。

2. 形態
労働保険料の納付等労働保険に関する事務を、個々の事業主に代わって処理することを認可された事業協同組合・商工会などの中小企業主の団体をいい、既存の団体であっても差しつかえない。

3. 事務組合を利用できる条件
事業規模により制限されている。(金融・保険・不動産・小売業では一企業全体で常時50人以下、卸売・サ一ビス業では100人以下、その他では300人以下の労働者を使用するもの。)

4.設立認可の方法
認可を受けようとする団体の主たる事務所の所在地を管轄する公共職業安定所所長をとおして都道府県知事へ届け出る。

5. 仕事の内容
適用事業の保険関係成立届の提出、暫定任意適用事業の保険加入申請、保険料申告・納付、政府からの通達のとりつぎなど

6. 政府の普及・促進措置
保険料納付率が合計の95%以上等一定の要件を充たすことにより報奨金制度の恩典があるほか、零細事業被保険者福祉助成金制度が利用できるようになっている。

②第二種特別加入者(一人親方等)

a.一人親方その他の自営業者

労働者を使用しないで事業を行う、一人親方その他の自営業者については、その仕事の危険の度合、業務と私生活の区別の明確さといった観点から次の者に限り特別加入が認められている。
・自動車を使用して行う旅客または貨物の運送の事業(個人タクシー、個人貨物運送等)を行う者
・建設事業(大工、左官、とび、石工など)を行う者(いわゆる一人親方)
・漁船による漁業を行う者
・林業の事業を行う者
・医薬品の配置販売事業を行う者
・再生利用廃棄物収集運搬事業を行う者

b.一人親方その他の自営業者が行う事業に従事する者
 普通は家族従事者をさす。

C.特定作業従事者
・特定農作業従事者
 一定規模の事業場における危険性の高い農作業に従事する者
・指定農業機械作業従事者
 危険性の高い機械を使用する農作業に従事する者
・職場適応訓練受講者
 中高年齢失業者等休職手帳保持者で、国などが実施する訓練作業に従事している者
・一定の危険有害作業に従事している家内労働者とその補助者
 例:機械によるプレス・型抜・研削作業や有機溶剤を使用する靴鞄製造作業
・労働組合の常勤役員であって一定の作業に従事する者(労組の一人専従者)
→加人手続
・条件 同業者等の団体に加入すること(個々人でなくそれぞれの属する団体が加入の単位となるため)
・手続 団体が「特別加入申請書(一人親方等)」(記名式)を労基署へ提出し、承認を受ける。

③第三種特別加入者(海外派遣者)
a.開発途上国に対する技術協力実施団体(国際協カ事業団など)から海外に派遣される者
b.海外の事業に従事するため派遣(単なる出張は除く)される者
c.海外の中小事業の代表者等として派遣される者

海外出張者、海外派遣者の区分

海外出張者:単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず、国内の事業場に所属し、当該(国内)
事業場の使用者の指揮に従って勤務する者
海外派遣者:海外の事業場に所属して、当該(海外)事業場の使用者の指揮に従って勤務する者
 (注) 単に企業内でどのような扱いになっているかで区別するのではなく、国内事業場に所
   属するか、海外事業場に所属するかの実体的判断を伴うため、判断が困難な場合もある。
一般的には次表により取扱われる。

業務内容                      
①商談のため                
②技術・仕様等打合せのため         
③市場調査・会議のため           
④視察・見学のため             
⑤現地での突発的なトラブル(製品事故・    
 災害等)対策のため
⑥調整員(アフターサービス)         
⑦海外留学(大学の研究室等)                    
⑧技術修得                 
⑨海外駐在員                     
⑩海外関係会社への出向                
〔海外で行う据付工事(有期事業)の場合〕
①総括管理者                     
②指導員 イ.監督・指導のみ             
     口.自らも作業する場合           
③安全衛生指導員                   
④事務員                       
⑤一般作業者                     
⑥現地で採用した者                        
取扱い
出張
特別加入
非適用

(注)1. 既に派遣されている者も特別加入が可能である。
  2. 派遣者であっても、労働者の性格を有しない派遣先事業(大規模事業のみ)の代表者
    となる者(現地法人の社長)や留学生としての派遣は除外される。
→加入手続
○条件 派遣元の企業または団体について保険関係が成立していること
○手続 派遣元の団体または事業主が「特別加入申請書(海外派遣者)」(記名式)を労基
    署に提出し、承認を受ける。

 
6.労働災害

(1)業務災害
①定義
政府労災保険における「業務災害」とは、労働者が労働契約に基づき、事業主の支配下にあること(業務遂行性)に伴う危険が現実化したもの(業務起因性)と経験則上認められる災害をいう。

(労働省の行政解釈昭和50.12.25基収第1724号の2)

●「業務遂行性」とは・・・・・・
労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態をいう。
●「業務起因性」とは・・・・・・

業務と災害との間に経験法則に照らして相当と認められるところの
客観的な因果関係が存在することをいう。

この両者の関係は「業務遂行性」が「業務起因性」の第一次の判断基準をなすと考えられている。
従って「業務遂行性」がなければ「業務起因性」は成立しないが、「業務遂行性」があれば必ず「業務起因性」が成立するわけではない。

②業務遂行性が認められる主な場合

・所定の就業時間中に所定の就業場所で作業中
・作業中の関連行為・付随行為中
・作業の準備・後始末中、待機中
・休憩時間中に事業場施設内で行動中
・天災、火災等に際しての緊急行為中
・出張途上
・通勤途上で事業場の専用バスなど通勤専用交通機関を利用中

③ 業務起因性の判断のポイント(負傷の場合)
「業務遂行性」の形態により「業務起因性」の判断は若干異なるが、次の三つのケースに分類できる。

    
  「業務遂行性」の形態  「業務起因性」の判断
1 就業中

労働者が会社で自分の仕事をしている場合(事業主の支配・管理下にあり、業務に従事している場合)
この場合の災害は、私用をしていた時、天災地変による時等の特別な原因がない限り
業務起因性があると認められる。
2. 就業時間外

労働者が会社の中にいるが、休憩時間中あるいは始業前、終業後などで直接仕事はしておらず自由行動が許されている場合(事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事
 していない場合)
この場合に「業務起因性」が認められる(業務上と認められる)のは、会社の設備や環境が原因となっている場合に限られる。
3. 3.事業場施設外

労働者が出張、公用外出など会社の外で仕事をしたり、それに伴ういろいろのことを している場合(事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に徒事している場合)
 
この場合は、ケース1と同様に労働者が特に私的な行為をしない限り、業務上の災害と認められる。

※具体的な認定事例については、付2 業務災害の認定事例 参照

④ 業務上の疾病
業務災害、通勤災害には、負傷だけでなく疾病も含まれる。基本的な考え方は負傷の場合と同じであるが、災害を明確にとらえられない場合が多いため、若干異なる考え方を用いている。

業務上の疾病には、災害により疾病になる「災害性疾病」と長期間にわたり業務に伴う有害作用が蓄積して発病する「職業性疾病」の2種類がある。

a.災害性疾病

災害性疾病には、次の2種類があるが、いずれにしろその業務上・外の判断は負傷の場合と同じように考えることができる。

・災害による疾病
・災害による負傷に起因する疾病

しかし、疾病の場合には、疾病の原因となる災害が、素因、基礎疾病、既存疾病などと関係することが多く、医学的診断のみでは決定を下せない場合がある。この場合、災害が発病の唯一の原因である必要はなく、関係するいくつかの原因(共働原因)の一つであれば足りる。

しかし、事業主の支配下にあると否とにかかわらず生じたであろう疾病が、偶然、事業主の支配下にあるときに発病した場合(いわゆる機会原因)は、既存疾病などの自然悪化にすぎず、業務上の疾病とはいえない。

b.職業性疾病
職業性疾病は、長期間にわたり業務に伴う有害作用が蓄積して徐々に発症するものである。

このような疾病では、業務遂行性・業務起因性の判断が困難なため、労基法施行規則第35条で業務上の疾病の種類を例示して、一定の業務に従事していた事実とその疾病の発生という事実がある場合には、業務起因性を推定できるようになっている。この場合には、疾病の発生原因として、時間的に明確な災害という事実は存在しない代わりに、漸進的に傷病の原因となる事実(有害 因子)が必要とされている。

c.脳血管疾患及び虚血性心疾患等(過労死)について

次の2つの要件を共に満たす場合、業務が相対的に有力な原因であると判断し、業務上の疾病として取扱われる。

○次の業務による明らかな過重負担を発症前に受けたことが認められること。
・発生状態を時間的及び場所的に明確にできる業務に関連する異常な出来事に遭遇したこと。
・日常業務に比較して特に過重な業務に就労したこと。

○過重負荷を受けてから、症状の出現までの時間的経過が医学上妥当なものであること。

(2)通勤災害

① 通勤の定義(労災保険法第7条第2項)
通勤とは、労働者が就業に関し、住居と就業の場所との間を合理的な経路および方法により往復することをいい、業務の性質を有するもの(業務災害と認められるもの)を除く。

②「通勤」の判断のポイント

a.労働者の往復行為が「就業に関し」て、すなわち出勤または退勤のためになされること

b.その往復行為の起点・終点が自宅などの「住居」と工場・事務所などの「就業の場所」であること

c.この往復行為が、社会通念上「合理的な経路および方法」によりなされること

d.経路の「逸脱・中断」がないこと(ただし、「日常生活上必要最小限度の逸脱・中断であって厚生労働省令で定めるもの」(注)については、その逸脱・中断が終り通常の経路に復した後は通勤再開とみなされる-労災保険法第7条第3項-)ただし、上記の条件を満たしている通勤の途中で生じたすべての傷病等が「通勤災害」とみなされるのではない。

当該傷病等の原因となった出来事が、その性質上被災労働者の通勤に通
常伴う危険が現実化したものと認められなければならない。

(注)具体的には
・日用品の購入その他これに準ずる行為
・公共職業訓練校において行われる職業訓練、学校教育法の学校・専修校もしくは各種学校で行われる教育、その他これらに準ずる教育訓練であって、職務能力の向上に資するものを受ける行為
・選挙権の行使その他これに準ずる行為
・病院または診療所において診察または治療を受けること、その他これらに準ずる行為となっている。
※具体的な認定事例については、付3 通勤災害の認定事例 参照


③単身赴任者の就業場所と家族居住地(自宅)との往復について
次のa及びbの要件を満たしている場合、その往復を通勤として取扱い、家族居住地(自宅)を住居とする。
 

a.就業の場所と自宅との間の往復に、原則として毎週1回以上の反復・継続性が認められること。


b.就業の場所と自宅との間の所要時間及び距離は、原則として片道3時間以内及び200㎞以内であること。


週末帰宅型通勤の途中に、日用品の購入その他これに準ずる行為をやむを得ない事由により行うため、通常の通勤の拠点となる社宅・アパート等の住居に立ち寄った場合、合理的な経路に復した後は通勤と認められる。

④赴任途上災害
赴任・帰任途上における災害のうち、次のa~dの要件を全て満たす場合、赴任途上災害として取扱う。


a.採用のため住居地から採用事業場へ赴く途上または転勤のため住居地から赴任先事業場へ赴く途上に発生した災害であること。


b.事業主の命令に基づき行われる赴任で、社会通念上合理的な経路及び方法による赴任であること。


c.赴任のため、直接必要でない行為あるいは恣意的行為に起因して発生した災害でないこと。


d.赴任に対し、事業主より旅費が支給される場合であること。



7.政府労災保険の給付内容
政府労災保険においては、保険給付および特別支給金が支給される。(一覧表は次頁)
I 保険給付

(l) 保険給付の種類
業務災害に関する保険給付            
療養補償給付(現物または現金)                    
休業補償給付                   
傷病補償年金                   
障害補償給付                   
(障害補償年金、障害補償一時金)          
遺族補償給付                  
(遺族補償年金、遺族補償一時金)          
葬祭料                      
介護補償給付                   
二次健康診断等給付
通勤災害に関する保険給付
療養給付(現物または現金)
休業給付
傷病年金
障害給付
(障害年金、障害一時金)
遺族給付
(遺族年金、遺族一時金)
葬祭給付
介護給付

●受給権者の希望にもとづく措置


○障害(補償)年金差額一時金
 障害(補償)年金を受けている者が死亡した場合にすでに支給された障害(補償)年金の額および障害(補償)年金前払一時金の額の合計額が障害等級に応じて定められている一定額に満たないとき、その遺族に対し請求に基づきその差額が支給される。


○障害(補償)年金前払一時金
 社会復帰等のための資金として、障害(補償)年金の受給権者の請求に基づいて、障害(補償)年金を一定額までまとめて前払いする。


○遺族(補償)年金前払一時金
 死亡した直後の一時的な出費のため、受給権者の請求により遺族補償年金をまとめて前払いする。

(2) 主な保険給付のポイント


①療養(補償)給付
a.療養期間(給付期間)
第一に、療養を必要とする程度の負傷または疾病でなければならない。
第二に、受給期間は治ゆの状態に達するまでであり、治ゆしたか否かは医学的に考慮して決定するのではなく、療養継続が必要か否かを判断して法律的に決定する。すなわち、まだ病的症状が残っていてもそれ以上の療養効果がなければ治ゆしたものとして給付は打ち切られる。


-15-


政府労災保険の給付内容一覧表
(平成16年4月現在)

療養を要する場合

療養(補償)給付
療養の給付
療養の費用の支給

労災病院や労災指定病院等において無料で療養を受けることができる現物給付

労災病院や労災指定病院以外の病院等における療養を要した費用を支給する現金給付

休業を要する場合

休業(補償)給付
療養のため労働することができず、賃金を受けない期間が4日以上にわたった場合は、休業4日目以降1日につき給付基礎日額の60%相当額が支給される。


(業務災害の最初の3日間については、事業主負担)
傷病(補償)年金
1年6ヵ月以上たっても治らない場合で、かつ、障害の程度が傷病等
級(注)に該当する場合は、その障害の程度に応じ年金給付基礎日額の
313日分(1級)~245日分(3級)までの年金が支給される。


休業特別支給金
傷病特別支給金
上記の支給対象となる休業1日につき、給付基礎日額の20%相当額が支給される。


上記の支給対象となる障害につき、114万円(1級)~100万円(3級)までの一時金が支給される。

傷病特別年金
上記の支給対象となる障害につき、算定基礎日額の313日分(1級)~245日分(3級)までの年金が支給される。

死亡した場合(即死)

注1. 給付項目のうち■表示のものについては、ボーナスを受けていた者についてのみ適用される。


 2. 傷病等級の明細については付7参照


 3. 給付の名称で( )内にくくっているものについては、
   ( )内の文言を含めたもの→業務上災害の給付名
   ( )内の文言をはずしたもの→通勤災害の給付名
   である。
 


職場復帰


障害(補償)給付
障害(補償) 年金| 障害(補償)一時金
障害特別支給金


左記の支給対象となる障害につき、その程度に応じ、342万円(1級)~8万円
(14級)までの一時金が支給される。


身体に障害等級1級~7級に該当する障害が残ったとき、その程度に応じ、年金給付基礎日額の313日分(1級)~131日分(7級)までの年金が支給される。


身体に障害等級8級~14級に該当する障害が残ったとき、その程度に応じ、
給付基礎日額の503日分(8級)~56日分 (14級)までの一時金が支給される。


介護を要する場合
介護(補償)給付

障害特別年金               障害特別一時金
上記の支給対象となる障        上記の支給対象となる障
害につき、算定基礎日額        害につき、算定基礎日額
の313日分(1級)~131日        の503日分(8級)~56日
分(7級)までの年金が支         分(14級)までの一時金
給される。                  が支給される。


①障害(補償)年金または傷病(補償)年金1級を受給している者のうち常時介護を要する者につき、介護に要する費用(上限月額104,970円)が支給される。


②同1級及び2級(精神神経障害及び胸腹部臓器障害の者、主に、じん肺、せき損に限る)を受給している者のうち随時介護を要する者につき、介護に要する費用(上限月額52,490円)が支給される。


葬祭料(葬祭給付)
葬祭を行う者に対して、315,000円の基本額に給付基礎日額の30日分を加算した額または給付基礎日額の60日分のいずれか高い方の額が支給される。

遺族(補償)給付
遺族(補償)年金              遺族(補償)一時金
受給資格者数により年金           主として、年金の受給資
給付基礎日額の153日分           格者がいない場合、給付
~245日分までの年金が            基礎日額の1,000日分の
支給される。                    額が一時金として支給される。

遺族特別支給金
左記の支給対象となる死亡につき、300万円の一時金が支給される。

遺族特別年金
遺族特別一時金
上記の支給対象となる死亡につき、算定基礎日額の1,000日分の額が一時金として支給される。


上記の支給対象となる死亡につき、受給資格者数により算定基礎日額の153
日分~245日分までの年金が支給される。

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b.付添い看護
療養のため必要である限り、付添い看護も給付対象になる。ただし基準看護の病院に入院して付添い看護をつける場合は、基準看護には付添いまで含まれているはずであるとの趣旨から一般には認められない。しかし、実際問題としての看護婦不足なども勘案して、重症患者に限り認められる余地がある。なお看護費用は、看護団体と都道府県労働局長との協定額に基づいて支払われるので、実費に満たない場合もありうる。
 

c.通院費
支給の基準は次のとおり
・住居地または勤務先から4km程度の範囲内にある指定医療機関へ通院する場合であって、交通機関の利用距離が片道2㎞を超える通院(傷病の程度により、これより短い距離であっても認められる場合がある。)


・住居地または勤務先から4 km程度の範囲内に適当な指定医療機関がないために、4kmを超える最寄りの指定医療機関への通院


・労基署長が診察を受けることを勧告した医療機関への通院


②休業(補償) 給付
a.療養のため(通院も含む)の休業であること
 たとえぱ業務災害により打撲傷を受けたときに、自宅で湿布をして休んでいたのでは、原則と して給付対象とはならない。


b.賃金を受けていないこと
 労働時間の一部について休業した場合であっても、平均賃金と実際に働いた時間に対する賃金との差額が6O%以上支払われていなければその日は「休業の日」として給付の対象とされ、その差額の60%に相当する額が給付される。


c.休業日数が4日間以上であること
 とびとびの期間であっても、合計休業日数4日目から給付の対象となる。


③ 障害(補償)給付
a.併合
同一原因により複数の障害がある場合は、重い方の障害により等級を決定する。また13級以
上に該当する障害が併合する場合は次のように、等級繰上げが行われる。
13級以上が2以上のとき・・・・・・1級繰上げ
8級以上が2以上のとき・・・・・・2級繰上げ
5級以上が2以上のとき・・・・・・3級繰上げ

b.加重
すでに障害があり、それが災害により重くなった場合には、災害の結果による障害状況で等級判定をし、給付額は災害前の障害により評価した等級相当額を控除して給付される。

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(3) 給付基礎日額


①概説


a.給付基礎日額と算定基礎日額


政府労災保険の現金給付の額の決定の基準となるのが、給付基礎目額である。休業給付基礎日額・年金給付基礎日額・一時金給付基礎日額の3種類があり、いずれも下記②の「給付基礎日額」より導かれる。
これらの給付基礎日額は、結別支給金の算定の基準である算定基礎日額とは異なるものである。
また、保険給付の中でも療養(補償)給付については現物給付が実費払いのため、給付基礎日額は関係がない。


b.スライド制
スライド制とは、賃金等の経済的条件の変動に応じて政府労災保険の給付の実質的価値を維持するため給付額を改定する制度である。
このスライド制が適用されるのは、給付基礎日額および算定基礎日額を支給額の算定の基礎とするすべての保険給付および特別支給金である。すなわち、療養(補償)給付および支給額が定額である特別支給金にはこの制度は適用されない。



②給付基礎日額(スライド前給付基礎日額)
一般的には労基法の「平均賃金」に相当する額と同額である(労災保険法第8条第1項)。


a.平均賃金(労基法第12条)
・原則として、被災日の直前3か月間の1生活日あたり平均賃金である。

・賃金額には現物給付を含むが、結婚手当などの特別な給付やボーナスなど3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は除かれる。


・算定期間内に産休や試用期間等がある場合は、当該期間・対応賃金とも控除して算定する。


・日給、時給、出来高払制の労働者については、実労働日数で算定した額の6O%と、被災日の直前3か月間の1生活日あたり平均賃金のいずれか高い額とする。


b.給付基礎日額の最低保障
・一律4,180円(平成15年8月1日改訂)


・算定期間中私傷病のあった者は、当該期間および対応賃金をそれぞれ控除して算定した額と、「平均賃金」のいずれか高い額


c.給付基礎年額
 給付基礎日額×365


●年齢階層別最高限度額・最低限度額
わが国の年齢階層別の賃金構造の実態等に基づき、5才単位に各年齢階層別の最高・最低限度額を定めたもの


④一時金給付基礎日額
年金給付基礎日額と同様にスライドする。



Ⅱ.特別支給金


(1)特別支給金
政府労災保険は、労働災害に関する保険給付の支給を中心的な目的とするが、これを補完するため労働福祉事業を行うこととしている。その一環として、政府労災保険金の受給者に対し、通常の保険給付のほかに付加的な給付を与える特別支給金制度があり、全員に支給されるものと被災前1年間にボーナス給付を受けていた者のみに支給されるものとがある。

①全員に支給されるもの

内 容

休業(補償)給付の支給対象となる休業1日につき給付基礎日額の20%相当額
障害(補償)給付の支給対象となる障害について、その程度に応じ、342万円(障害等級1級)~8万円(14級) までの一時金
傷病(補償)年金の支給対象となる障害について、その程度に応じ、114万円(傷病等級1級)~100万円(3級)までの一時金
遺族(補償)給付の支給対象となる死亡について、300万円の一時金


種 類
休業特別支給金
障害特別支給金
傷病特別支給金
遺族特別支給金


②ポーナスを受けていた者に支給されるもの

       内 容

障害(補償)年金の支給対象となる障害について、算定基礎日額の313日分(障害等級1級)~131日分(7級)までの年金

障害(補償)一時金の支給対象となる障害について、算定基礎日額の503日分(障害等級8級)~56日分(14級)までの一時金

傷病(補償)年金の支給対象となる障害について、その程度に応じ、算定基礎日額の313日分(傷病等級1級)~245日分(3級)までの年金

遺族(補償)年金の支給対象となる死亡について、遺族の人数に応じ、算定基礎日額の153日分~245日分相当額の年金

種 類

障害特別年金
障害特別一時金
傷病特別年金
遺族特別年金
遺族特別一時金

遺族(補償)一時金の支給対象となる死亡について、算定基礎日額の1,0O0日分相当額の一時金


(2)算定基礎日額
①概説
特別支給金の額の決定の基準となるのが、算定基礎日額である。ただし、休業特別支給金のみ、給付基礎日額(前述)が基準となる。
算定基礎日額も、給付基礎日額と同様にスライドする。


②算定基礎年額
被災日直前1年間の特別給与の総額。但し、下記bの上限がある。


a.特別給与
給付基礎日額の算定対象から除外されている、ボーナスなど3か月を超える期間ごとに支払われる賃金をいう。ただし結婚手当などの臨時に支払われたものは含まれない。


b.算定基礎年額の頭打ち
算定の結果、給付基礎年額又は年金給付基礎年額の20%(賃金の約2.4か月分)、または15O万円のいずれか低い額を上回る場合は、それらの額のうちいずれか低い方の額を算定基礎年額とする。

③算定基礎日額

算定基礎年額×1/365



8.保険給付と他の諸制度との関係

(1)事業主に故意・重過失、民事上の賠償責任があるときの取扱い

①事業主からの費用徴収
業務災害について、事業主の故意または重大な過失が認められるときは、政府はその保険給付に要した費用相当額の全部または一部を事業主から徴収することができる(労災保険法第25条第1項第3号)。
具体的には、休業・障害・遺族の各補償給付と葬祭料について支給の都度30%が徴収される。
〔故意・重過失と認められる場合〕
・危険防止に関して直接的・具体的な措置を定めている法令の規定に違反したため発生した事故
 例:労働安全衛生規則第148条
・危害防止措置に関する監督官庁の指示した具体的措置を怠ったため発生した事故
・危険急迫のため監督官庁の指示した直接的・具体的措置を怠ったため発生した事故

②労災保険給付と民事損害賠償との調整
同一の損害について、政府労災保険と使用者双方からなされるてん補の総額が実際に生じた損害額を上回ることは不合理であるため、次のような方法で労災保険給付と民事損害賠償との間で調整することになっている。


a.民事損害賠償の側における調整


障害(補償)年金、遺族(補償)年金の受給権者が、同一の事由について、事業主からこれらの年金給付に相当する民事損害賠償を受けるときは、その事業主は、これらの者の年金受給権が
消滅するまでの間、前払一時金の最高額相当額の法定利率による現価(当該前払一時金に係る年金給付等が支給された場合には、その支給額の法定利率による現価を控除した価額)の限度で、民事損害賠償の履行をしないことができる。
この民事損害賠償の履行が猶予されている場合において、年金給付またはその前払一時金が支給されたときは、その価額の法定利率による現価の限度で、事業主は、民事損害賠償の責めを免れることになる。


b.労災保険給付の側における調整


保険給付の受給権者が事業主から民事損害賠償を受けることができる場合において、当該保険給付の受給権者に対し同一の事由について保険給付に相当する民事損害賠償が行われたときは、政府は、労働者災害補償保険審議会を経て厚生労働大臣が定める基準により、その価額の限度で保険給付を行わないことができることになる。

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(2)労働者に責任があるときの取扱い


①労働者の故意による事故
-保険給付を行わない(労災保険法第12条の2第1項)。


②労働者の重過失による事故、故意の法令違反による事故
-保険給付の全部もしくは一部を行わないことができる(同条第2項)。
事故発生の直接の原因が、労働安全衛生法等の規定違反に基づくものであるときは、休業(補償)給付・傷病(補償)年金および障害(補償)給付の所定額について、支給の都度30%が減額される。


③労働者が正当な理由なく療養に関する指示に従わないとき
-保険給付の全部もしくは一部を行わないことができる(同上)。
「療養に関する指示」とは、医師がその指示を行ったことが診療記録上明らかであるとか、労基署長の文書による具体的指示に限る。
この場合は、休業(補償)給付と傷病(補償)年金の10日分が減額される。
 


(3)第三者に責任があるときの取扱い


①第三者の損害賠償が政府労災保険に先行支払いされた場合
-政府労災保険では同一種類の給付については減額支給される(ただし、事故発生後3年間)。
政府労災保険の支給項目にない慰謝料は減額とは無関係。
特別支給金や特別年金については減額の対象とはならない。


②政府労災保険が先行給付された場合
-給付の範囲内で加害第三者に求償する(ただし、事故発生後3年間)。



(4) 自賠責保険との関係


労働災害が自動車事故である場合、自賠責保険との調整をどう取扱うかについての考え方は、上記(1)、(3)と基本的に異なるところはない。また政府労災保険、自賠責保険いずれの給付を先に受けるかは、当事者の自由意思にゆだねられるべきものであるが、保険制度間の調整として、自賠責保険を先行させるとの申し合わせが行われている(労働省通達41.12.16)。

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(5)保険給付と労基法の災害補償との関係


労基法上、使用者は労働者の業務災害に関して災害補償を義務づけられている。この災害補償責任は、政府労災保険の給付により免除される。
ただし、休業補償給付が支給されない休業期間の最初の3日分についてのみ、労基法に基づき事業主が直接休業補償を行わなければならない。
 


(6)他の社会保険給付との関係


政府労災保険と健康保険とがそれぞれ業務上外を分担して縦割りの関係にあるのに対し、政府労災保険と、厚生年金保険および国民年金の保険給付とは横割りの組合せになっている。
したがって、政府労災保険の保険給付と厚生年金保険および国民年金の保険給付とは、ワンセットで併給されることになるが、同一の事由について二重のてん補が行われることにならないように、一定の方法により調整される。

①年金間の調整
同一の事由(障害または死亡)に関して、政府労災保険の年金と社会保険の年金とが併給される場合は、政府労災保険の年金は、定められた調整率を乗じることにより、減額して支給される。なお、社会保険の年金はそのまま全額が支給される。

②休業(補償)給付と社会保険の年金との間の調整
①に同じ。ただし、調整率は異なる。

③一時金給付間の調整
同一の事由に関して政府労災保険の障害補償一時金(障害一時金も含む)と厚生年金保険の障害手当金とが支給される場合には、厚生年金保険の障害手当金は全額支給停止される。

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